今回は今更ながら、今年の日本株市場で間違いなく一番話題をさらった銘柄、キオクシアホールディングス(285A)を取り上げます。
年初に1万円前後だった株価が6月には11万円を突破したのを指を咥えて見ていて、そこからわずか1ヶ月で半値まで急落。私のタイムラインでも「億り人が出た」「高値掴みで大怪我した」と悲喜こもごもの報告が飛び交っていました。
正直に言うと、私は高配当株とNISAが軸なので、この手の超ボラティリティ銘柄には手を出していません。ただ、7月31日に決算発表を控えたこのタイミングで、「なぜ10倍になり、なぜ半値になったのか」を整理しておくことは、相場を学ぶ上で最高の教材になると思い、勉強会として分析してみました。
(※株価などの指標は2026年7月24日終値時点のデータに基づきます)
キオクシアってどんな会社?
| 会社名 | キオクシアホールディングス(285A) |
|---|---|
| 事業内容 | NAND型フラッシュメモリの開発・製造(旧・東芝メモリ) |
| 上場 | 2024年12月 東証プライム |
| 特徴 | NAND「専業」メーカー。SSDなどデータセンター向けが成長ドライバー |
もともとは東芝の半導体メモリ事業が分社化した会社です。DRAMも手掛けるサムスンやSKハイニックスと違い、NANDフラッシュメモリにほぼ全てを賭けている「専業」という点が最大の特徴。つまり、NAND市況が良ければ利益が爆発し、悪ければ赤字に沈む、極めてシクリカルな銘柄です。
株価10倍から半値へ:何が起きたのか
まずはこの1年足らずの値動きを時系列で整理します。
- 2026年1月6日:年初来安値 10,945円
- 2026年6月22日:上場来高値 112,700円(時価総額は一時約60兆円まで拡大)
- 2026年7月17日:ストップ安を含む急落で52,110円まで下落
- 2026年7月24日:終値 56,010円(前日比−9.49%)
約半年で10倍、そこから1ヶ月で半値。上昇の原動力は、AIデータセンター向けSSD需要の爆発によるNAND需給の逼迫でした。実際、業績は本物で、2026年3月期は売上収益2兆3,376億円(前期比+37%)、純利益5,545億円(同2倍)と過去最高を叩き出しています。
では、業績好調なのになぜ急落したのか。報道や開示を整理すると、大きく3つの要因が重なっています。
- AI半導体セクター全体の利益確定売り:Metaの設備投資(capex)ペースへの懸念をきっかけに、AI関連銘柄全体からマネーが逃げる地合いに。
- 韓国勢の大型増産報道:韓国メーカーによる84兆円規模とも報じられるNAND増産投資計画。「今の需給逼迫は数年後に供給過剰へ転じるのでは」という、シクリカル銘柄が最も嫌うシナリオが意識されました。
- 米国での特許訴訟の敗訴評決:7月17日に米国の特許侵害訴訟で約2.29億ドルの支払いを命じる不利な評決が開示され、下落に拍車をかけました。
ポイントは、足元のNAND市況や生産キャパの逼迫自体は崩れていないのに株価が半値になったこと。業績の悪化ではなく、「需給」「ナラティブ」「将来の供給懸念」が同時に崩れた、教科書のような調整だと感じます。
指標をどう読む?「PER55倍」と「PER19倍」の二面性
| 株価 | 56,010円(7/24終値) |
|---|---|
| 時価総額 | 約30.7兆円 |
| PER(実績) | 約55倍(2026年3月期EPS 1,024円で計算) |
| PER(会社予想) | 表示なし(通期ガイダンス非開示のため) |
| PBR(実績) | 21.86倍 |
| 配当 | 予想なし |
ここが今回一番面白いところです。証券アプリで「予想PER」が表示されないのは、キオクシアが通期業績予想を出さず、四半期ごとのガイダンス方式を採っているため。なので自分で考えるしかありません。
通期実績ベースのPERは約55倍で、明らかに割高に見えます。しかし四半期の中身を見ると、2026年3月期は第1四半期の純利益183億円に対し、第4四半期だけで純利益4,077億円と、期中に利益水準が桁違いに切り上がっています。仮にこの第4四半期を単純に年換算すると純利益約1.6兆円、PERは約19倍まで下がる計算になります。
ただし、ここで思い出したいのが半導体セクターの有名な経験則、「シクリカル銘柄はPERが低く見える時こそ市況の天井」という低PERの罠です。年換算の1.6兆円ペースがこの先も続くかどうかは、まさに韓国勢の増産がいつ効いてくるか次第。指標の数字だけで「割安になった」と飛びつくのは危険な局面だと思います。
高配当株投資家から見たキオクシア
私の投資軸に照らすと、キオクシアは配当予想なし・PBR21倍超・値動きは日次で±10%と、高配当株投資とは何もかもが真逆の銘柄です。過去に短期トレードで470万円溶かした身としては、この値動きに飛び込む選択肢はありません。
それでも定点観測する価値はあると考えています。NAND市況はデータセンター投資の先行指標として役立ちますし、「業績は絶好調でも、需給とナラティブが崩れれば株価は半値になる」という今回の値動きは、どんな銘柄を持っていても他人事ではないからです。
まとめ:7月31日の決算が試金石
要点を整理します。
- 業績は本物。2026年3月期は増収増益で純利益は前期比2倍、四半期ごとに利益水準が切り上がっている
- 急落の主因は業績悪化ではなく、AI関連全体の利確売り・韓国勢の増産懸念・特許訴訟の三重苦
- 実績PER55倍と直近四半期年換算PER19倍の「二面性」があり、どちらを信じるかは増産による市況転換の時期次第
次の焦点は7月31日発表の2027年3月期・第1四半期決算です。決算の数字そのものよりも、「好決算でも売られるのか、それとも見直し買いが入るのか」という市場の反応に注目したい。以前まとめた決算モメンタム投資法の視点で言えば、決算後2〜3日の出来高と値動きが答え合わせになるはずです。私はポジションを持たず、外からじっくり観察します。
(※本記事はあくまで個人の備忘録・考察であり、特定銘柄の売買を推奨するものではありません。数値には誤りや古い情報が含まれる可能性があります。投資判断の際は必ず証券会社のアプリ等で最新のデータをご確認の上、投資は自己責任で最終判断をお願いします。)
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